雨が降っても傘いらず 高円寺駅西商店会へようこそ

新シリーズ

こちら高円寺駅西商店会 ~高架下物語~

「星さいか」が高架下を物語形式で紹介する

 新シリーズがスタート

 

星さいか(歌手・俳優)

ウルトラマンダイナ TPC看護婦サイカ役(MBS)、ウルトラマンガイア XIGオペレーター鵜飼彩香役(準レギュラー)(MBS)、ゴジラTV 世界のゴジラ(木曜日)レギュラー(レポーター)(TX)ほかで活躍中

 

 

第4話:懐かしきジャズの調べにのせて

 

「ラフロイグ、シングルをロックで」

 

由里はいつものように注文した。

淡いグレーのストライプのスーツ、ロングヘアを小奇麗に後ろでひとつにまとめていて会社帰りなのだろうということが一目でわかる。

 

高円寺駅の高架下と並行に通る道がある。若者達が屋外席でワイワイと楽しそうに飲んで食べている比較的新しい店を通り過ぎ、昔ながらの定食屋で有名な赤い看板が目印の「味楽」を通り過ぎた先にこの店「ブリキの時計」はある。

 

由里は、もともと高円寺に住んではいたが、新宿にある旅行会社に勤め始めてからは、実家を出て高円寺駅の近くのマンションに一人で住んでいる。今年で36歳になる。

 

高校時代の親友の真理絵は幼稚園の先生になり、今は結婚して子供がいる。最近では1年に1回会うぐらいか。二人は高校時代、吹奏楽部に入っていてよく一緒に帰宅した。駅前の「一口茶屋」でたい焼きをほおばったものだった。由里は英文科に進み、海外旅行を扱う旅行会社に就職した。学生時代からジャズが好きで、アメリカのニューオーリンズにジャズを聞きに行ったことがあった。それが、旅を扱う仕事をしたいと思うきっかけだったと由里はよく友人に話している。

 

ツアー企画から時には添乗までをこなしていて、仕事中は気が抜けない。そんな由里にとって、仕事帰り、家に帰る前にこの店でたまにお酒を飲んで帰るのが最近の楽しみだ。

 

店の前の看板に書かれた「ブリキの時計」という名前と少年とも青年ともいえぬ顔のデザインはいつ見ても心惹かれる。おそらく初めて訪れたのは25年以上前だろうと由里は思っている。小さいころにこの店に父親に連れてきてもらった記憶がわずかにある。そのことを思い出してこの店を訪れてからまだ1年足らずだが、くれば注文は〝ラフロイグ”と〝チキンホワイトグラタン”だった。

 

酒は強いほうではないが、シングルモルトのラフロイグの独特の香りと味が由里は好きだった。海の香りとも保健室のような香りともいわれる独特の香りは好みがわかれるところであり、“惚れ込むか、大嫌いになるかのどちらか”とさえ言われるほどだが、由里はラフログの味に惚れた派だったらしい。

 

由里は懐かしさあふれる店内と店に流れる音楽も好きだった。

少し暗く感じる店内は壁の色のせいだろう。使い込まれたいい色合いになっていて真新しい真っ白な壁よりも目にやさしく落ち着く。

 

店の奥には大きなウッドベースが飾ってある。楽器は違うものの、「セロ弾きのゴーシュ」の話を思い出させる。正面奥の上には巨大は木のクーラー。昭和のドラマに出てきそうな代物だが、きちんと動いているのが素晴らしい。

 

左の壁にはお酒のミニチュアボトルのコレクションが飾られていて、それもまた風情があるのである。

 

そして、何より流れている音楽が耳に心地よい。由里の好きなジャズから、オールディーズの洋楽を楽しむことができるのである。

 

ざわざわ、がちゃがちゃしていないので、音楽に耳を傾けながら、お酒を楽しむことができる。今時にない昭和の時間を味わえる貴重な空間だと由里が感じる店だった。

 

「お待たせしました」

 

50代後半ぐらいのスリムなマスターがいつものように、にこやかに言いながらグラスを2つテーブルに置いた。

 

「チキンホワイトグラタンをお願いします」

「はい」

 

マスターがカウンターに戻っていった。ほどなくトントントントンと調理の音がジャズに合わせて聞こえてくる。料理は注文を受けてから作ってくれる、家庭的な温かさがあり手作り感が由里にはたまらなく美味しく感じられた。

 

●●●

 

「ラフロイグと砂肝のからし煮」

井坂正平はきまっていつもカウンター席に座った。

ドリンクを作ったり、調理をするマスターを見ながら、ちびちびと飲むのが居心地よく感じるからだ。

井坂正平は学生時代に新潟から上京して東京の大学に通っていた。学費は親が払ってくれたが、アパート代は自分で稼がなくてはならず、4畳半の安めのアパートを借りていた。風呂はなく、同じアパートに住む男子学生と銭湯通いをしていたが、夏はとにかく暑い!帰りに涼んでいこうとクーラーのある「ブリキの時計」に仲間数人で入って飲んで帰ったことがあり、それ以来、学生仲間で時折飲みに行った。ボトル1本を数人で飲むからあまりお金に余裕のない学生の身分でもなんとか払える金額で済んだのであった。

 

大学時代に通い始めてから、その後、就職した後も井坂はたまに会社の帰りに「ブリキの時計」に飲みに立ち寄った。

卒業後は4畳半のアパートから今度は高円寺駅から徒歩10分ほどのバストイレ付きのアパートに引っ越した。再び高円寺に住まうことを決めたのはこの町の人や雰囲気が肌にあっていると思ったからだった。

 

サラリーマンとなってからは学生仲間と飲んでいた頃とは飲み方も当然変わった。会社帰りに店に一人で立ち寄り、座る場所はカウンター席に定着した。バランタインを飲むことが多かったが、ある時からラフロイグにはまった。

 

《からしのかくし味がほどよく口にひろがる。やわらかさにびっくりの砂肝のからし煮》

 

スモーキーで海藻や潮の香の特性を抱いているという独特の芳香が好きになり、ラフロイグのロックに、つまみは学生時代から変わらぬ“鳥皮の細切り”か“砂肝のからし煮”というのが常になった。

 

結婚してからしばらくは足が遠のいたが、娘がある程度の歳になると、妻は娘のことに忙しくなったこともあり、再び会社帰りにたまに飲みに来るようになった。

 

一人で音楽を友達に飲んだり、時にはマスターに愚痴ることもあった。マスターは嫌な顔もせず、それぞれのドラマを最後まで聞いてくれる。そうやって誰か聞いてくれる人がいることで、やるせない日も乗り切れたと50代半ばとなった井坂正平はあの時代を懐古することがたまにある。

 

仕事の後に新入社員の歓迎会があり、自宅のある高円寺に到着したのは23時半を過ぎていた。翌日は土曜日で仕事も休みのため、井坂正平は久しぶりに店に足を向けた。

 

金曜日の夜ということもあり、スーツ姿のカップルや、会社帰りのサラリーマンなどがゆったりと過ごしていた。

井坂はいつも座る入り口近くのカウンター席の1席に腰を下ろした。

「いつもので」とマスターに頼んだと同時に背中越しに声をかけられた。

 

 

「あれ?お父さん?」

 

振り返ると紺系のフォーマルワンピースにジャケットを羽織ったカチッとした姿の娘の由里が立っていた。

 

「今仕事帰りか?ずいぶん遅いな」

「今日は会社帰りに歓送迎会があってね。ここまで残業はないよ、さすがに」

 

由里はそう言いながら、カウンターの井坂正平の隣席に座った。

同じ町に住んでいても、由里はたまにしか実家には顔を見せない。

「なんだかできる女性みたいに見えるな。馬子にも衣装だな」

父親の正平は目を丸くして由里をしげしげと眺めた。

 

「いらしゃいませ」

と由里に挨拶するマスターに

「マスター、娘です」

「そうだったんですか。娘さんといえば、たしか昔、一度一緒にお見えになりましたよね。お待たせしました、ラフロイグです」

マスターはラフロイグのグラスと水入りのグラスとを正平の前に並べた。

 

「私も同じので。まだグラタンできますか?」

由里がすかさずオーダーする。

「大丈夫です。ラフロイグのロックとチキンホワイトグラタンですね」

24時にさしかかっていたが、マスターは問題なし!というようににこやかに答えると早速支度を始めた。

「ラフロイグを飲むのか?」

正平はまたまたびっくりして言った。

「なんかすっきりするっていうか。そこだけはお父さんに似たのかな。血は争えないわ」

残念そうに由里がおどけて言って見せた。

 

「昔、一度だけ連れて来てくれたじゃない。その時にラフロイグってお父さんが言ったのがなんか変わった名前だから、ずっと覚えてたのよね、たぶん」

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、あったな。あの時、あのピンクの公衆電話を10円入れてかけたいってお前はきかなくてな、かけるまで帰らないって言い張って」

「ダイヤル式の公衆電話、指で回してかけるのがなんか楽しくて。でも、どこにかけたんだろう、覚えてないわ」

 

「家にかけてたぞ、たしか。お母さんが出て、ここに2人で来たのがばれたんだよな」

 

「そうか。あの頃はまだかける先が私にはどこにもなかったのか……」

 

由里が笑ってごまかした。

「あっ、でも、この間小さい男の子とお父さんが地方から来ていて、その時にちょうどあの電話が鳴ったのでマスターが電話を取ったの。それを見ていた小さな男の子が、「パパ、あれなに?」ってお父さんに聞いたわけ。で、電話だって説明したんだけど、今はジーコンジーコンする電話なんてないもんだから、納得しなくて」

 

「まあな、最近はみんなスマホかガラ携の時代だから、よほどのことがないと公衆電話も使わないだろうし、今はすっかり、あのピンクのタイプの公衆電話は姿を消したからな」

 

「そうそう。だから、その男の子は10円入れてかけさせてもらってたんだけど、数字の番号のところに指を入れては回すのが不思議で楽しかったみたいよ」

「お前も昔はそうだったけどな」

「そうだっけ?」由里はきょとんとした顔で言った。

 

「それにしても、お父さんが今でも飲みに来てるなんて知らなかったな……」

 

「おいおい、もともと父さんが通っている店だからな」

とそこへ、「お待たせしました。グラタンはもう少しお待ちくださいね」

 

由里の飲み物と砂肝のからし煮をカウンターテーブルに置きながらマスターは笑顔で言い添えた。

「早く帰らないとお母さんさみしがってるよ」

「たまにしか帰ってこないお前と違って土日は母さん孝行してるぞ、父さんは」笑いながら軽く言い返す。

「失礼しました。また家にも遊びに行かせていただきます」

と笑いながら頭をちょこんとさげて返し、由里と正平は父娘で乾杯した。

 

店内には“Daybyday”の音楽がいつのまにかかかっていた。由里の好きな曲だった。マスターは客の好みや注文時に聞いた苦手な野菜や食べ物なども、ほぼすべて覚えていた。

 

以前に一度、由里がこの曲をかけてほしいとマスターに頼んだことがあり、以来、由里がいる間に一度はこの曲を店内で流してくれるのである。

 

マスタ-のそんな見えないやさしい心づかいが忘れられずに、ここを訪れた客は再び何度でも足を運ぶのかもしれない。

昭和世代に懐かしい、ゆっくりとお酒を楽しめる空間。

 

そして、現代の殺伐としたスピードに少し疲れた新しい世代もまた、どこか癒されるこの店でひとときを過ごしたくなるのかもしれない。ジャズに耳を傾け、お酒と手作りのつまみで過ごす心安らぐひととき、それは「ブリキの時計」がくれる魔法の時間なのである。

 

ブリキの時計

営業時間 18:00~25:00

定休日  日曜日

電話番号 03‐3314‐3266

 

*****ブリキの時計おすすめポイント!*****

アンティークな空間、お酒でくつろぐ癒しのひととき

 

■今も昭和のハイカラな雰囲気が残りどこか懐かしさを感じる店内。

入り口にある10円いれて使うピンクの電話は必見!知らない世代にはぜひ10円を入れて試してほしい!

 

■ お客様の雰囲気に合わせてマスターがその時々に選ぶ、心地よいジャズと古き良きアメリカ音楽

 

■ マスター手作りのホワイトソースと肉味噌を使ったおしゃれで美味しいメニューの数々ホワイトソースたっぷりのグラタンはひとつひとつ手作り、具もたっぷり!熱々を召し上がれ!

 

■ 開店当時から店を支えてきたやさしいマスター。しっかりと話を聞いてくれる頼りになるマスター。マスターに会うために遠くに引っ越しても折々店を訪れる常連さんも多いらしい。

 

*****「ブリキの時計」のマスターから一言*****

 

昔ほど、お酒というものを飲まなくなった気がします。もっとお酒を飲みましょう!

 

※「ブリキの時計」は昭和57年開店、2016年には35周年を迎えました

 

 

 

 

 

第3話:僕はテケ(ゴジラや)

 

「KONNICHIWA」

黒のリュックサックを背負った背の高い金髪の男性が入ってきた。

「いらっしゃいませ」

店内に響くやさしく明るい声。(おっ!今日もいい声してるな……)僕は会話に耳をすませる。

「CHOUGOUKIN ARIMASUKA?」

「超合金は今、昔のタイプは少なくなってきてるんですよ。コン・バトラーVとか、海外ですごくブームになっていて・・・」

 

説明するのはこの店「ゴジラや」の店主木澤さんだ。

ここは高円寺の高架下にある「ゴジラや」。昔のおもちゃなどを売っている店で、店主の木澤さんは、テレビにも出演している有名な鑑定士。でも、若い頃に音楽もやっていたらしく、70年代の音楽とかもすごく詳しいんだ。

 

僕の名前はテケ。ソフビ(ソフトビニール)でできた猫の人形だよ。僕の生みの親は木澤さんと奥さんの二人!2007年に生まれたんだ。以来、僕はこの「ゴジラや」のガラスケース越しに毎日、木澤さんのことを見ているんだよ。

木澤さんはたぶん猫が好きなんだと思う。まぁこれは、僕の勘だけどね。だって、冬になるとよく猫の柄のセーターを着てるんだ。いろんな柄があって、もしかしたら奥さんの手編みなのかな、なんて僕はひそかに思っているんだけど真相はまだわからない。

 

じゃあ、みんなに僕の家を紹介するね。

ここ「ゴジラや」には、床から天井までびっしりといろんなおもちゃが所狭しと並んでいる。かつて少年だった人たちが探し求めるのは特撮関係のグッズ。たとえば、すごく昔のソフビの怪獣とか、ウルトラマン、ゴジラとか。目を輝かせてショーケースを眺めるお客様の姿をよくみる。木澤さんに質問する人も、もちろんいる。木澤さんはこれまた目をきらきらさせて、どういった品なのか、いつごろのものなのかを詳しく説明するんだ。

木澤さんはそれぞれのおもちゃについて、その価値を話せるすごい人なんだよ。

1階には「ゴジラや2」という名前の飲食店がある。カレーがおいしいと評判で酒が飲める店。木澤さんがマスターとして店に立つこともあるんだって。僕はまだ連れて行ってもらったことはないんだけどね。

「ここだよ!高円寺のゴジラやさん!」

階段の下から声が聞こえた。

店は直線階段を上った2階にある。入り口を入ってきたのは母親と少年だった。

「いらっしゃいませ」木澤さんがいつものように優しい笑顔で出迎える。

「あー!鑑定団の木澤さんだ!本物だ!」木澤さんを見るなり少年は目を輝かせてさけんだ。

「すみません」申し訳なさそうに母親が謝る。

「こら、さとし!失礼でしょ」めっ!と母親が少年を叱った。

少年は「は~い」と言うと「すげー、本物だよ母さん」と店内を楽しそうに散策し始めた。

(子供は無邪気だにゃ……)

「あの、昔の怪獣のソフビっていうのはこの中にあるものですか?」

少年の母親が木澤さんに尋ねた。

「そうですね。もし、気に入ったものがあればケースを開けますよ?」

「ありがとうございます。父は昔から怪獣ものが好きで、ゴジラとかピグモンとか、いろんな怪獣を集めているんです。その父に還暦の祝いに何がほしいと聞いたら、昔の怪獣がほしいと言うんです。でも、普通のおもちゃ屋さんには現在の新しいものしか置いてないそうで、昔のものならこちらで見つかるんじゃないかと兄に言われまして」

「そうですか。ゴジラですと、こちらにいくつかありますよ。円谷系の怪獣ですと、こちらにガラモンとかキングジョーとかかなり古いものが入ってきたばかりで・・・何かお好きな怪獣があるんでしょうか?」と木澤さん。

このあと木澤さんは母親と少年さとし君に怪獣の説明をしてあげたんだよ。二人ともフンフンとすごく楽しそうに聞いていた。

こんな風に木澤さんは丁寧に説明して教えてあげる。ここゴジラやでは、毎日がそんなことの繰り返しなんだ。

 

さて、ここには少年向けだけでなく、昔のリカちゃんとか、バービーとか女の子向けの人形とかもある。

小さなおまけの品とか、レコード、ペコちゃんグッズ、薬屋さんのマスコットキャラクターグッズなんてのもある。見るだけでも楽しい小さな博物館みたいな感じの店なんだ。

最近では特撮時代を懐かしむ日本のお客様に加えて、海外からのお客様も増えていて、今日みたいに超合金ロボットを見せてほしいということが多いみたい。大人気だ!

 

木澤さんにゴジラやウルトラマンについて語らせたら話がつきることはないだろうと僕は思う。作品の内容、造形美術、登場する怪獣達、作品に登場する俳優さんたちのこと、本当に奥が深いんだ。だからおもちゃとともにその話を聞くのも楽しみにやってくる人もたくさんいる。

木澤さんは円谷、東映などに出演していた俳優さんたちとも仲がよくて、たまにお店にも遊びに来るんだよ。

みんな、貫禄というかオーラがあってただものじゃないって人目でわかる。店内にサインも飾られているんだ。

さまざまな人が訪れるこの店にもお休みがある。火曜日と水曜日。僕達おもちゃ達が羽をのばせる2日間だ。

いつもはガラスの中でじっとしていないといけないからね。

でも、この2日間は、お客様がこないからのびのびできる!僕は店の中にいる、いろんなおもちゃ達に話を聞くんだ。ここに来るまでにそれぞれのドラマがあるんだよ。

 

「私はこれまで何十年も箱の中にいたよ」そう語ってくれたのは新品みたいにすごくきれいなソフビの怪獣さん。「まだ子供だったご主人様は私のキャラクターがお気に入りだったようで、すごく大事にしてくれた。手に取るときもそっと大切そうにもち、普段は戸棚の上において眺めていたのだが、ご主人様が社会人になったころ、私は使わなくなった物と一緒に箱の中にしまわれて、そのまま押入れに入れられた。つい先日、再びダンボールから出してもらえた時には、ご主人様はすごく年をとっていてびっくりしたよ。私をとても懐かしそうに優しい目で眺めていた。当時目を輝かせて私を見ていた小さなご主人様の目を私は思い出した。だが、さようならをすることになったのだ。大切にしてくれる人がいるなら、と娘という女性が私をここに連れてきたのだよ」

「私は外に遊びに行くときにはいつも一緒だった」と語るのはウルトラマンのソフビだ。

 

「当時小学生だった私の元主人は、テレビで放映されていた「ウルトラマン」にもう夢中で、外に遊びに行くときにも、母親と出かけるときもいつも一緒だった。おかげでいろんなものを見れて楽しかったな。でも、数年するともうお役ごめんで、私はほったらかしにされた。かわいそうに思った母親は、まわりをふいてくれたが、私はそのまま戸棚の奥にしまわれ、時が過ぎた。今は、次の主人待ち。大切にしてくれる人だといいな」

「私はね、もうお人形さんとは遊ばないからって、ここにつれて来られたの。捨てるのはかわいそうだし、ここなら私をほしいという人のところに行かれるだろうからって。長いこと一緒に遊んでくれてありがとうって最後に言ってくれたのが嬉しかったわね」

そんなわけで、ここにはいろんなドラマがあるんだ。やってくるもの、去っていくもの。

店主の木澤さんはそのドラマを受け止めて、僕達をここにおいてくれている。それは木澤さんが小さい頃におもちゃを捨てられてしまったことに由来するみたいなんだ。捨てられるおもちゃ達を救ってあげたい!そんな気持ちから「ゴジラや」は始まったらしい。まさに僕達にとってヒーローみたいな存在なんだ。

以来30年、ここから旅立つおもちゃ達は「大事にしてもらうんだよ」って、優しい目で送り出されていく。

僕もいつか誰かの元にいってしまうかもしれないけど、きっとその時には木澤さんが優しく送り出してくれるはずだって信じてる。

「ゴジラや」ここは、木澤さんが作り出した僕達おもちゃ達の停留所であり、同じ気持ちを共有できる心の家なんだ。

 

ゴジラや

 

◆営業時間:14~18時

◆定休日:火曜日・水曜日(木澤氏の撮影都合により不定休あり)

◆電話番号:03-3336-3178

twitter : @Godzillaya

※おもちゃの買い取りも行なっていますのでお気軽にご相談ください

 

★店主木澤さんから皆様へ一言

円谷系、東宝系などのソフトビニール製の人形が充実していると思います。

昭和40年頃のソフトビニール製のギララ、ガラモン、ナメゴン、キングジョー、

カネゴン、ゴメス、ペギラなどの怪獣人形もあります。

まずは、皆さんに一度見ていただきたいですね。

そして、時代の流れを感じてほしいです。昔のおもちゃは、できの悪さが、良さとなっています。そんな“良さ”をぜひ飾って、味わってほしいと思います。

 

★お店のお勧めポイント

昭和のおもちゃ~平成のおもちゃまでの幅広いラインナップ。

東宝系・円谷系の怪獣関係はもちろん、調合金ロボット関係、鉄腕アトム関係、ぺこちゃん、サトちゃんなどのマスコットキャラクター系、レコードもあり、おもちゃの種類が豊富。

※昭和のおもちゃで探しているものがあれば、見つかるかもしれません。

ソフトビニール製の怪獣人形は、レジわきのショーケースにびっしりと集まって皆様をお待ちしています。今ではなかなか手に入らないような珍しい品もあり、一見の価値あり。

そしてなんといっても!

テレビ「開運!なんでも鑑定団」で長年鑑定士として登場している木澤さん本人に出会えます!

 

 

第2話:昭和の味は胸に熱く(味楽)

 

「ガラガラガラ

田端耕造はいつものように手動扉をあけて中に入った。

「いらっしゃいませ」

いつものように親父さんの安定した明るい声が店内に響く。

端耕造は今年で72歳、少し黒髪のまじった白髪にいつもジャケットを羽織っている。これは会社時代の癖だ。60歳で退職した後もグループ会社で数年間出向して勤務していた。サラリーマン時代の癖がぬけず、近所であろうと家の外に出るときには今もきちんとした身なりをしている。

耕造の妻の京子は5年前に亡くなった。

老後は2人で旅行に行こうというのが京子の口癖だったが、耕造はいつでも行かれるからと先延ばしにして、自宅でのんびり過ごすのを楽しんでいた。いつからか京子は体調を崩すことが多くなり、今日は具合が悪いと言ってたまに寝込むようになった。そして、5年前の冬の朝、胸が苦しいといって倒れ、救急車で運ばれた。緊急処置で意識はあったが、いくつか検査の必要があるため入院となり、京子はその夜、その病院で亡くなったのであった。

 

二人には子どもはいなかった。耕造は突然ひとりぼっちになった。

2階建てのその家は一人ではがらんとして広く大きく感じられた。

これまでは家で過ごしていた耕造は、それを境に昼間は外に行くようになった。とはいえ、地元高円寺の駅のあたりまでぷらぷらと歩いていき、どこかの店でコーヒーの1杯でも飲んで時間をつぶしていた。特にしたいことはなかった。

高円寺には商店街がいくつか存在する。高円寺純情商店街、高円寺ストリート、高円寺パル商店街などなど。

耕造も日によって違う商店街を歩くようにしていたが、暇をつぶすとなれば高円寺駅のそばの喫茶店で休むことが多かった。天気がいい日には駅前の一口茶屋で小倉たい焼きを1匹買ってベンチで食べたりもした。

ある日、高架下の隣の道を歩いていると大勢の客が、ある店の前で順番待ちする行列にでくわした。

赤い看板に黄色い大きな文字で“味楽”とありその横には白文字で中華料理と書いてある。

ちょうどおなかも空いていたし、時間はたっぷりあるので耕造にとって長時間待つのは好都合、とりあえず列の最後尾に並んだのであった。

 

表の壁の白いボードになにやらメニューが書かれていた。本日のランチ、チキンカツ、ポークハム、目玉、味付けのり。ライス、味噌汁付で、値段は500円とある。味はわからないが、これだけ並んでいるということはおいしいのだろうと耕造は思った。そこへ20代ぐらいの若者二人がやってきた。

「げっ!やっぱ並んでるよ」

「まっ、当たり前じゃない!10日は並ぶよ。仕方ないっしょ」

そういいながら、二人は耕造の後ろに並んだ。

「日替わりなんだっけ?」

「ボード見てきたら?俺は焼肉ライスかカツカレーにするかな」

「カレーっていえば、ここのマスター昔あの王貞治選手にカレーだしてたんだってな。先輩から教えてもらってさ」

王貞治……野球選手の王選手だろうか?耕造はふと若者の会話に引き込まれた。何をかくそう耕造はかつては大の巨人ファンだったのである。

「じゃあ、マスターに聞いてみるか」

そうだ聞いてほしい!耕造は心の中で会話に参加していた。

「今日は忙しいんじゃね」

「そうだな、じゃあ聞くのは次回か。残念」

二人は大学の野球部らしく、翌週の試合について話し始めた。

「1名さまどうぞ」

耕造は二人より一足早く店の中に入った。

装飾の基本は赤なのか、店内のいすも赤かった。4人がけのテーブル席が2つ、カウンターに赤いいすが並んでいて、満席だった。配置のせいなのか色合いなのか、昔ながらの中華やさんという感じがして心地よく感じた。

カウンター席に通された耕造は、先ほどの話にでてきたカレーも食べたいと思ったが、なにせ初めて見るメニューのため一瞬戸惑った。だがふと隣の客が食べている炒め野菜たっぷりのセットがおいしそうに見えた。野菜炒めライスだろうか?と感じた耕造は迷わずそれを注文していた。

「お待ちどうさま」

どんぶり茶碗に大盛のご飯、味噌汁、そして、山盛りの野菜炒め。上には大きなハムかつがのっていた。

2日分の野菜が取れそうなほどの山盛りの野菜炒めは、キャベツ、もやし、絹さや、豚肉などが入っている。

耕造は早速、野菜炒めから食べた。

「んっ!!なつかしい味だ」耕造が一番始めに感じたのは懐かしい味ということだった。

最近の中華のチェーン店で出るような洒落た味とはまた違い、その昔、若かりし頃に中華食堂で食べたようなあの味付けだった。

それぞれの野菜は、火は通っているのにしんなりせずにパリパリと歯ごたえがあり、新鮮な感じがした。味付けも胡椒がいい具合にきいていて美味しかった。味噌汁も家庭的な味がした。わかめと鰹節が絶妙で、こちらは昔妻の作ってくれた味噌汁ににていると耕造は思った。もう食べることができないと思っていた味噌汁の味に、耕造の胸は熱くなった。

カリッとあがったハムかつ、山のようにある野菜炒め、大盛りライスと味噌汁を十分味わいながら完食した。

「ごちそうさま」と耕造は席を立ち、勘定をしながらおかみさんに言った。

「おいしかったです。この店、長いんですか?」

「ありがとうございます。高円寺で52年になります」厨房の入り口からひょいと顔を出したのは自分と同じ年代とおぼしき柔和な顔立ちの男性だった。この店のマスターだ。

 

「10日なのでこれお持ちください」

差し出されたのは3枚のカード。100円引きという文字が見えた。

この店では毎月10日はこの金券がもらえるのである。それで混むのだと耕造はこのときようやくわかった。

「高円寺なんで、また来ます」

「ありがとうございました」マスターとおかみさんはにっこり笑って耕造を見送った。それが耕造が味楽に行き始めるきっかけだった。

以後、定休日以外は毎日通うようになった。

同じような常連は何人もいることも徐々にわかってきた。

男性のみならず、女性同士の客や、もちろん若者もやってくる。

懐かしい味は誰にでもある。懐かしさを感じる店がある。

ここは、昭和の味に出会える、耕造にとっては今となっては貴重な空間になっていた。

妻を亡くし、特に生きる目的もなかった耕造だったが、最近では趣味を見つけた。

朗読教室というところに通い、朗読を習っているのである。そして帰りには妻の味噌汁と同じ味のする味噌汁がのめるこの店による。その空間で、耕造はふとあの昭和の時代に戻ったような幸せな気持ちになるのである。

今、耕造には目標がある。いつか仏壇の前で妻に朗読を聞かせよう、笑われないような立派な朗読をと。

 

味楽

営業時間 11:00~21:00ぐらい

定休日 火曜日

 

◆マスターから皆さんへ

毎日お客様が来てくださることが励みです。日替わりは500円で毎日メニューが変わりますのでぜひ楽しみに食べにきてください

 

◆味楽おすすめポイント!

♪40年前から変わらぬ値段とボリューム

♪王選手も高校時代に食べていたカレーライス

♪女性と子どもにはおみやげにうまい棒付

♪マスターの野球のお話

 

 

 

 

 

第1話:熱々たいやきパワー(一口茶屋)

 

「いらっしゃいませ」

「舞衣ねぇ、クリーム!」

桜色のワンピースにベージュの半コートを着て、髪の毛を二つに結んだ幼稚園ぐらいの女の子が、店の注文窓の下からななめ上の店主のほうに向かってにこにこと注文する。

 

隣に立っているのは娘の母親。紺の上下に春のコートを羽織った清楚な身なり、肩より長い濃い茶色の髪を後ろできれいにまとめている。

「たい焼きのクリームと小倉、それからたこ焼きをお願いします」

「クリーム、小倉にたこ焼きね。ありがとうございます。たい焼きは、今ちょうど焼きたてですよ」

黄色の制服姿の60代ぐらいの店主が、はきはきとした声で、こちらもまたにこにこ笑いながら応えた。

 

母親の真理絵は、この店に通って20年になる。

この店が出来た当初は、ショートヘアの高校生だった。合唱部だった真理絵は、部活を終えた後、自宅のある高円寺駅にたどり着くのはたいてい6時過ぎ。

同じ駅に住み、同じく合唱部員の親友由里とともに帰ってくるのが常であった。

ある冬の日、何か食べたいと思ったときに、高架下の商店街入り口にある店の「たい焼き」の文字が2人の目に留まった。二人とも言わずとも気持ちは同じだった。「食べよう!」制服にコート姿の女子高校生二人は迷わず店へと向うと、カスタードクリームのたい焼きを注文した。

夫婦で切り盛りしているその店は、商店街の入り口の角地にちょこんとたっていた。

ウィンドー越しに“たい焼き”と“たこ焼き”を作る姿が客にも見える。

優しい笑顔の奥さんが器用に“たい焼き”型に生地を流し込み、あんこをすっすっと置いていく。その合間に焼き途中のたい焼きの焼き具合を確認している。

黄色地に店のロゴが入った制服姿の主人が、焼きあがったばかりのたい焼きをひょいと取り上げ、2つ紙に包んだ。

 

店主夫婦は年の頃40代、店でみせる二人の流れ作業は息があっていて、絶妙な二人三脚をみせる。

「出来立てだから、熱々ですよ。はいどうぞ」にこにこと店主が二人にたい焼きの包みを手渡した。

作りたてのたい焼きを二人は、はふはふ言いながら、ほおばった。ぱりっとした薄皮になめらかな熱々のクリーム、冷え切っていた体が温まっていくのを感じた。これが真理絵とこの店のたい焼きとの出会いだった。

その後も、真理絵は部活の帰りに由里とたい焼きを、時折買って食べるようになった。

あまりおこずかいを持っていない高校生二人にとっては、手ごろな値段で小腹もみたされる上、帰り道に歩きながら食べられるのがよかった。

楽しかった高校時代はあっという間に終わり、真理絵は短大へと進んだ。

理科系を目指していた由里とは進路は別れた。真理絵は子供が好きで目指していたのは幼稚園の先生だった。

 

 

将来に向かって学ぶ毎日。

そして、1年後、迎えた幼稚園の実習期間。

実際に幼稚園でアシスタントとして入り現場で学ぶ、子供達は無邪気で元気で、一緒に走り回ることも日常茶飯事、なかなかハードで、子供と過ごす時間は楽しいながらも、やはり1日の終わりには疲れてぐったりしていた。

そんな真理絵の楽しみが、この店のたい焼きを食べながら家に帰ることだった。

店に行くと、何も言わずとも「いらっしゃいませ。いつものですか?」と店主が聞いてくれるようになっていた。

「はい」

真理絵は高校時代から変わらずカスタードクリームのたい焼きを買っていた。

親友の由里と二人で食べたその味を食べると、高校時代の「夢をかなえてやるぞ!」という希望に満ちた自分に戻れるような気がした。カスタードクリームはなめらかで甘くとろりとしたクリームが口の中にすっと消えていく。疲れた体にエネルギーが浸透していくようだった。

 

幼稚園への就職が決まったとき、真理絵はこの店に立ち寄った。

「いつものですね」

「ええ。わたし、幼稚園に就職が決まったんです!」

真理絵の口から勝手に言葉がでていた。なぜかこの店の夫婦には知ってもらいたいと思ったのである。

「それは、よかったですね」主人が顔をくちゃっとさせて満面の笑みを浮かべて祝福する。

「あなた、とても優しそうだから、きっと素敵な先生になりますね。孫ができたら、その幼稚園に通えるといいわね」と奥さんも笑顔で言った。

「ありがとうございます。ずっと、たい焼きパワーをもらってました」

「今日は祝い鯛ですよ。私たちからの気持ちです。どうぞ」

店主が紙に包んだたい焼きを真理絵にそっと渡した。

たい焼きの温かさが手に伝わる。出来立ての熱々だった。

「あの……いいんですか」

「今日は特別ですからね」奥さんがにっこり笑って応えた。

真理絵は、嬉しさがこみ上げてきた。店の夫婦の温かさにふれ、真理絵はがんばっていける!そう思った。

 

あれから15年が過ぎた。

真理絵は幼稚園で先生をする中で、恋をして、結婚した。

子供ができたのを機に、幼稚園は辞めた。子供のために今度は時間を費やしたいとおもったからだ。

結婚した今もなお、真理絵は高円寺の実家にたまに顔をだす、もちろん5歳になる娘の舞衣とともに。

そんなときには必ずあの店に立ち寄る。

「いらっしゃい」

今も変わらず、店主夫婦があたたかく人を迎えている。この店を訪れる客達は、熱々のおいしい“たい焼き”だけでなく、この店主夫婦の温かさにも会いたくなるのだろう。

今日もまた、高円寺の高架下に温かい声が響く。

「出来立てですから、熱々ですよ」

 

 

一口茶屋

営業時間:11:00~21:30

定休日:水曜日

 

◆おすすめポイント!

♪ぱりっと香ばしい薄皮のたい焼き

♪甘さ控えめ、北海道産小豆使用のプレミアムたい焼き“小倉”

♪なめらかなクリームのプレミアムたい焼き“カスタードクリーム”

♪女性に人気!クリームチーズとの相性抜群!プレミアムたい焼き“小倉&チーズ”

 

◆店長から皆さんへ

お客様の「おいしい」という言葉がなによりうれしいです!

これからも孫の花嫁姿、ひ孫を見るまでがんばり続けます

 

 

 

 

 

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